舶用エンジン業界では、燃料消費率g/kWhという単位で燃費を表現しているのを見聞きしたことがあると思います。舶用エンジンの燃費計算は、船舶の運航コストを把握したり、環境への影響を評価したりする為に使われますので、設計者だけでなく運航者にとっても必要になる知識です。今回は、燃費の定義や熱効率への換算方法について、解説します。
舶用エンジンの燃費の定義
大型船舶の主機としてよく使われる2ストロークディーゼルエンジンのMAN社のエンジンを例に燃料消費率について解説します。7G60ME-C10.5(7シリンダのボア60cmの巨大なエンジン)の場合、出力は19,880kW、燃料消費率は164.0g/kWhとカタログに記載されています。これは、19,880kWでエンジンを運転している場合、19880 x 164.0 = 3,260,320g/h ≒ 3,260kg/hの燃料を消費するということを示しています。1時間当たり3260kgの燃料を消費するというのは、すごく大量ですね。
この燃料消費率は、過給機吸込み温度25℃、燃料油低位発熱量42,700kJ/kgの時の数値と定義されています。吸込み温度が高いとエンジンの効率は悪くなり(燃料消費率が増える)、吸込み温度が低いと効率が良くなる(燃料消費率が減る)ためです。また、燃料油もA重油(低位発熱量42,700kJ/kg)を使った場合のものになります。
熱効率の計算方法
この燃料消費率を熱効率に換算すると、どうなるのでしょうか。計算式で示すと以下の通りになります。
熱効率(%) = 3600(sec) ÷ (低位発熱量 (kJ/kg) X 燃料消費率 (g/kWh) ) X 1000 X 100
7G60ME-C10.5エンジンを例に数値を当てはめると、以下の通りになります。
熱効率(%) = 3600 ÷ (42700 X 164) X 1000 X 100 =51.4%
すごく高い熱効率ですね。
上記の計算式はわかりやすく記載したのですが、理論的に何を計算しているのかは次項で解説します。
熱効率の計算方法(理論的解説)
熱効率ηは、「供給した熱量Q1」と「実際に取り出した仕事Q2」の割合で計算することができます。計算式で表すと、η=Q2/Q1になります。
Q1は燃料を用いて投入した熱量ですので、1時間当たりの発熱量(kJ/h)の単位で表すと、以下の通りになります。
Q1(kJ/h) = 低位発熱量 (kJ/kg) X 燃料消費率 (g/kWh) X 出力 (kW) ÷ 1000 (g/kg)
Q1 = 42700 X 164 X 19880 ÷1000 =139215664 kJ/h
一方、Q2は実際の仕事になりますので、1時間当たりの仕事(kJ/h)で表すと、以下の通りになります。(kWの単位はkJ/sと同じですね)
Q2(kJ/h) = 出力 (kW=kJ/s) X 3600 (s/h)
Q2 = 19880 X 3600 =71568000 kJ/h
Q2 ÷ Q1を計算すると、0.514 = 51.4%になりましたね。
分母と分子に出力がいるので、打ち消しあって、最初に記載した簡単な計算式では省略されていたのです。
まとめ
舶用エンジンの燃費と熱効率の計算方法について、紹介しました。舶用主機のエンジンは常用負荷(75%や85%程度)の効率が最も良くなるように設計されています。上記の計算は100%負荷での計算を例に紹介しましたので、出力を変えたり色々と試してみて下さい。舶用エンジンの燃費は、船舶の経済性や環境への影響を評価するために非常に大事なスペックになります。このブログが燃費の定義や熱効率の計算方法についての理解を深める一助となれば幸いです。
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