【簡単解説】4ストロークエンジンの性能や仕組みを理解するためのミラーサイクル

ミラーサイクル エンジン

エンジンの性能向上において、「ミラーサイクル」という技術は重要な役割を果たします。近年のエンジンで多く採用されていたり、考え方が取り入れられていたりする技術ですので、知っておくことでエンジン設計者として、エンジン性能や仕組みをより深く理解できるようになります。今回は、そんなミラーサイクルについて、理論的な側面から簡単に解説します。

ミラーサイクルとは

ミラーサイクルとは、吸気弁を早閉じもしくは遅閉じすることで、熱効率の向上や窒素酸化物(NOx)の低減を図るサイクルのことです。4ストロークエンジンでは、下死点よりも早めに吸気弁を閉じ、2ストロークエンジンでは圧縮行程中の遅めに吸気弁を閉じるという違いはあります。参考までですが、ラルフ・ミラーさんによって最初に考案されたので、「ミラーサイクル」と呼ばれています。4ストロークエンジンのミラーサイクルのPV線図は下図のようになります。6’のところで給気弁を早めに閉じていることが特徴的になっています。

ミラーサイクル

1⇒2のプロセスはこれまでと同じく断熱圧縮で、ピストンが燃焼室内の気体を高温高圧の状態に圧縮していきます。

2⇒3’の等容変化、3’⇒3の等圧変化も通常のサバテサイクルと同じく、燃焼・膨張行程の燃焼を示しています。

3⇒4のプロセスは断熱膨張で、燃焼・膨張行程の膨張部分を示しています。

4⇒5の等圧変化は、4ストロークの排気行程を示しています。ピストンが下死点から上死点へ動き、シリンダー内の容積が減りますが、排気弁が開いていて、排ガスを押し出しながら圧縮されることなく、等圧で変化しています。

5⇒6の等容変化は、排気弁が閉じて、吸気弁が開きます。ここでは、この動作が一瞬で行われることを示していて、排気管の圧力から吸気管の圧力に一気に変化します。燃焼室内の排気ガスが一瞬で新気に入れ替わるので、PV線図は体積一定のままで、圧力が減少しています。

6⇒6’は等圧変化です。ピストンが上死点から下がって、新気が吸気管からシリンダー内へ流入してくる吸気行程を示しています。これまでは下死点付近で吸気弁を閉じていましたが、ミラーサイクルでは6’の位置で早閉じします。PV線図ではピストンが下がることで容積が増えますが、吸気弁が開いていますので、膨張することなく、等圧で6’まで変化していきます。

6’⇒1は断熱膨張です。ピストンがさらに下死点まで下がりつつ、シリンダー内が密閉されますので、筒内圧力が下がります。PV線図ではピストンが下がることで容積が増え、吸気弁が閉じて圧力が下がりながら、断熱膨張で変化して1の最初の位置まで戻ります。

ミラーサイクルエンジンの狙いとアトキンソンサイクルとの違い

ミラーサイクルエンジンの狙いとしては、実圧縮比を下げて1⇒2の圧縮行程による負の仕事を減らし、膨張行程は今まで通りの正の仕事を取り出すことで、熱効率を向上させるという事にあります。PV線図で説明すると、PV線図の面積が取り出せる仕事(つまり熱効率)ですので、1⇒2の圧縮行程を下に下げて、面積を広くしようという考えです。

一方で、アトキンソンサイクルというものも聞いたことがあるかもしれませんが、狙い・目的としてはまったく同じです。手段が異なるだけで、ミラーサイクルは吸気弁の早閉じで実圧縮比を変更するのに対して、アトキンソンサイクルでは、連接棒などのリンク機構を使って圧縮比そのものを変更するという方法をとっています。構造は異なりますが、サイクル論としては同じ事を狙っています。

メリット・デメリット

ミラーサイクルエンジンのメリット:

  • 熱効率向上:上記の通りで、圧縮行程のエネルギーロスが減り、熱効率が向上します。
  • NOx低減:ミラーサイクルには2の位置の圧縮端温度を低減できるという効果もあります。それにより、燃焼温度が下がり、NOx排出率も低減します。(NOxの発生は燃焼温度に依存します)

エンジン設計上のデメリット:

  • 着火性の悪化:圧縮端温度が下がりますので、燃焼時にうまく火が付くかに難があります。
  • 吸気量減少:吸気量が減少しますので、掃気効率が悪化します。

エンジン設計者としては、これらのデメリットを考慮した上で設計し、最大限のメリットを得られるようにしなければなりません。

まとめ

今回は、エンジンの効率改善やNOx低減に役立つ「ミラーサイクル」という技術について、簡単解説しました。これらの知識が皆さんのお役に立てば幸いです。

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