エンジンの効率や排ガス性能を最適化するために、燃料と空気の混合は重要です。燃料をスムーズに気化させたり、シリンダー内の空気の流れを工夫したり、設計的に様々な技術が盛り込まれています。単に燃料と空気が均一になるように積極的に混合するだけではなく、反対にあえて濃度の濃淡を付けることもあります。今回はこのような混合気の形成や希薄燃焼について、簡単に解説します。
燃焼における燃料と空気の混合の重要性
燃焼において、燃料(ガソリンやディーゼル油)と空気を適切に混合するというのは非常に重要になります。シリンダー内で効率的に燃焼させるためには、空気と燃料を均一に混ぜる技術が重要なのですが、混合状態が不十分だと、以下のような問題が発生します。
- 燃費の低下
- 排ガス中の未燃焼成分(すすや黒煙など)の増加
- エンジン出力(トルク)の低下
スワール渦について
吸気ポートから流れてくる空気を、シリンダー内で横向きの空気の渦にすることを「スワール渦(スワール流)」といいます。吸気ポートやシリンダーヘッド、シリンダーをスワール渦ができる構造や形状に設計し、空気と燃料を積極的に混合し、均質な燃焼になることを狙っています。
下の図はシリンダー内を上から見た図です。青線のようなイメージで、横向きの渦を形成させるように混合気を流しています。
タンブル渦について
スワールが横向きであるのに対して、縦向きの渦は「タンブル渦(タンブル流)」と言います。ピストンの頂面の部分にくぼみを作り、空気が縦方向に巡回するように、燃焼室の形状・構造を設計しています。タンブル渦も空気と燃料を積極的に混合し、均質な燃焼になることを狙っています。
下の図はシリンダーを横から見た図です。青線のようなイメージで、縦向きの渦を形成させるようにピストン形状など工夫しています。
エンジンにおける燃料と空気の混合の考え方
通常の運転状態では、スワールやタンブルなどの渦をつくって積極的に燃料と空気を混合させ、燃焼室内の空燃比がどの場所でも均質になるように設計することを目指します。これは最も燃焼効率が良くなるためです。
一方、次項で紹介する通り、アイドリング時などは、燃料の消費を抑えるために、あえて燃料濃度の濃淡をつくることもあります。
希薄燃焼(リーンバーン)と超希薄燃焼について
「希薄燃焼」とは、空燃比が 20~25 : 1 の状態での燃焼のことを言います。燃料が薄いので、英語でリーンバーン(lean burn)とも呼びます。本来はこれほど燃料が薄いと十分な燃焼は行えないのですが、吸気ポートやピストンの形状を工夫し、空気の流れを速めて燃料の気化を促進させることで、燃焼を可能にしています。希薄燃焼では大量の吸気が必要となり、スロットルバルブが大きく開かれるために、吸気の流れが円滑になります。この効果でさらに燃費が向上するというメリットもあります。
さらに、空燃比を 40~50 : 1 という極めて燃料の薄い状態で燃焼を行うのが「超希薄燃焼」と呼ばれます。これを可能にするためには、筒内噴射式(直噴)のインジェクターが必要になります。超希薄燃焼では、下図のように、点火プラグ付近に燃料を噴射し、限られた範囲の燃料濃度を高める「成層燃焼」という方法がとられています。これにより、従来では考えられなかった少量の燃料で燃焼を行うことができるようになりました。
希薄燃焼や超希薄燃焼を採用するエンジンでも通常の燃焼は可能で、走行状態に応じて使い分けられています。
まとめ
燃焼室内での空気の流れや渦の形成は設計者にとって、非常に興味深い課題になっています。また、燃焼方式や空燃比の設定もエンジンの基本スペックを考える上で、非常に重要な要素になります。この解説を通じて、皆さんのエンジンに関する基礎知識が深まれば幸いです。
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