今回は、エンジンの吸排気系の流れや性能によって非常に大切なバルブタイミングとバルブオーバーラップの考え方についてわかりやすく解説します。エンジンの4行程のうち、吸気行程では吸気バルブが開き、排気行程では排気バルブが開きます。しかし厳密には、バルブ開閉のタイミングはそれぞれの行程と完全に一致しているわけではないのです。今回は、性能向上できる「バルブタイミング」の設定方法の考え方について、簡単に解説します。
バルブタイミングとは
「バルブタイミング」とは、エンジンの吸気バルブと排気バルブが開閉するタイミングのことです。このタイミングはエンジン性能に大きく影響しますので、エンジン設計者としても非常に大切な要素になります。
バルブタイミングの設定方法のコツ
物体の動きと同じように、空気の動きにも慣性の法則が働きます。1ヶ所に滞っている空気はそのまま溜まり続けようとし、流れている空気はそのまま動き続けようとします。このため、バルブの開閉を行ってから吸排気の流れが変わるまでには、若干の時間差が生まれます。吸排気の流れをよりスムーズにするためには、バルブの開閉のタイミングを4行程の時期とズラしたほうが実は良いのです。このような事情から、バルブ開閉のタイミング(バルブタイミング)(略してバルタイ)は4行程の時期と若干ズレるように設定されています。
吸気バルブの開閉タイミングについて
吸気バルブのバルブタイミングについて見てみましょう。吸気行程では、ピストンが上死点から下死点に移動する間に、できるだけ多くの混合気を吸入することが望ましいです。しかし、吸気バルブが開いてから混合気が吸入されるまでには時間差があるので、ピストンが上死点に達してから吸気バルブを開くと、吸入の機会をロスしてしまいます。このため、吸気バルブは上死点よりも前に開く設定にする場合が多いです。また、ピストンが下死点に達して上昇に転じた後も、慣性によってしばらくは混合気が吸入され続けるため、かつては吸気バルブを閉じるのはピストンが下死点を過ぎた後にすることが多かったです。(最近はミラーサイクルという考えがあり、あえて下死点前に吸気バルブを閉じることが多いです。)
排気バルブの開閉タイミングとバルブオーバーラップについて
排気バルブの場合も吸気バルブと同様に、排気行程の始まる少し前から開き、行程の終わる後に閉じるのが一般的です。つまり、排気行程の終盤と吸気行程の序盤では、吸排気バルブがどちらも開いていることになります。この状態を「バルブオーバーラップ」といいます。
バルブオーバーラップ(VOL)では、吸入した混合気が排気とともに逃げてしまいそうに思えますが、実際には次のメカニズムによって吸排気の効率が上昇します。下図は、吸気と排気の両方のバルブが開いている状態を示しています。排気が勢いよく逃げ出すため、吸気がシリンダーに侵入し、またさらに、吸気の侵入がますます排気を押し出すという相乗効果もあります。ただし、この効果はあくまで短時間に限られます。
バルブの開閉の模式図
エンジンの排気と吸気の行程を、横軸時間・縦軸バルブリフト(弁の開き度合い)で表すと、バルブの開閉時期や量は下図のようになります。吸気バルブと排気バルブの開放時期は一部で重なっており、オーバーラップ状態になっていることがわかると思います。
まとめ
今回は、バルブタイミングとバルブオーバーラップについて簡単解説しました。実はタイミングを少しズラしていたり、バルブオーバーラップがあるというところが面白いですね。これらはエンジンの性能に直結する重要な要素ですので、エンジンの仕組みをより深く理解できたと思います。
今回はエンジンの基本的なスペックでよく使われる用語について説明しました。エンジン性能に関して非常に重要な要素になりますので、設計技術者もそうでない方も覚えておいて頂くと、エンジンの特性の理解につながること間違いなしです。
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